企業の浸水対策|被害を防ぐ事前準備と緊急時対応

近年、日本各地で豪雨による浸水被害が相次いでいます。 国土交通省の調査によると、令和5年の全国水害被害額は約7,132億円にのぼり、過去10年間で3番目に大きな被害となりました。 さらに2019年には統計開始以来最大となる約2兆1,500億円もの被害が発生しており、企業にとって浸水対策は喫緊の課題といえます。

水害は地震とは異なり、気象情報をもとにある程度事前予測ができる災害です。 つまり、適切な準備と対策を講じることで、被害を大幅に軽減できる可能性があります。 しかしながら、多くの企業では地震対策に比べて水害対策が遅れているのが現状です。

本記事では、企業が取り組むべき浸水対策について、事前準備から緊急時対応、そして被災後の事業再開まで体系的に解説します。 自社の浸水リスクを正しく把握し、従業員の安全確保と事業継続を両立させるための具体的な方法をお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。


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企業に浸水対策が必要な理由

企業が浸水対策に取り組むべき理由は、単に建物や設備を守るためだけではありません。 従業員の命を守り、取引先との信頼関係を維持し、事業そのものを継続させるために、浸水対策は不可欠な経営課題となっています。

水害による被害は年々増加傾向にあり、これまで浸水リスクが低いとされていた地域でも、想定外の被害が発生するケースが増えています。 特に近年は、短時間に集中して大量の雨が降るゲリラ豪雨が頻発しており、都市部においても内水氾濫による浸水被害が深刻化しています。

企業として浸水対策を怠った場合、人的被害の発生だけでなく、事業停止による売上減少、取引先からの信頼喪失、そして最悪の場合は倒産に至るリスクも否定できません。 だからこそ、経営者や防災担当者は浸水対策の重要性を正しく理解し、平時から計画的に備えを進める必要があります。

水害の発生頻度と被害規模の増加

日本における水害の発生頻度は、この数十年で明らかに増加しています。 気象庁のデータによると、1時間に50ミリを超える非常に激しい雨が降る回数は、1980年代と比較して約1.5倍に増えています。 地球温暖化の影響により、今後もこの傾向は続くと予測されており、企業は水害リスクの高まりを前提とした対策が求められます。

国土交通省が公表している水害統計を見ると、水害による被害額の推移は以下のとおりです。

年度全国水害被害額主な被害要因
2019年約2兆1,500億円台風19号による広域被害
2020年約8,400億円7月豪雨による九州地方の被害
2021年約3,700億円8月の大雨による各地の被害
2023年約7,132億円梅雨前線豪雨・台風2号による被害

これらの数字からも分かるように、水害による経済的損失は年によって大きく変動するものの、数千億円から数兆円という莫大な規模で発生しています。 特に2023年の被害では、秋田県において統計開始以来最大の被害額を記録するなど、地方都市においても甚大な被害が生じています。

企業にとって重要なのは、こうした水害が毎年どこかで必ず発生しているという事実です。 6月から7月にかけての梅雨期、そして9月から10月にかけての台風シーズンは、特に警戒が必要な時期となります。 年に複数回、水害リスクが高まるタイミングがあることを認識し、シーズン前から対策を講じておくことが重要です。

事業継続を脅かすリスクとは

浸水被害が企業にもたらすリスクは多岐にわたります。 目に見える被害だけでなく、間接的な影響も含めて考えると、事業継続を根本から揺るがす深刻な事態につながる可能性があります。

企業が浸水被害を受けた場合に直面する主なリスクは、以下の3つに大別できます。

  • 人的被害:従業員や来訪者の負傷・生命の危険
  • 物的被害:建物・設備・在庫・データの損壊
  • 事業継続への影響:操業停止・納期遅延・信用失墜

これらのリスクは単独で発生するのではなく、複合的に重なり合って被害を拡大させます。 たとえば、設備が損壊すれば生産が停止し、納期遅延によって取引先との関係が悪化するといった連鎖が生じます。 以下では、それぞれのリスクについて詳しく解説します。

人的被害と従業員の安全確保

企業にとって最も大切にすべきは、従業員とその家族の安全です。 浸水被害が発生した際、適切な避難行動がとれなければ、最悪の場合、人命が失われる危険性があります。

オフィスや工場内に浸水が起きた場合、水位が上昇するスピードは予想以上に速いことがあります。 膝程度の水位であっても、流れがあれば大人でも立っていることが困難になり、転倒によるけがや溺水のリスクが高まります。 特に地下施設では水が一気に流れ込み、逃げ場を失うケースも報告されています。

また、浸水が発生する前の段階でも人的被害のリスクは存在します。 道路が冠水している状況で無理に出勤しようとすれば、通勤途中で被災する危険があります。 車両が水没して身動きが取れなくなったり、歩行中にマンホールの蓋が外れた穴に落ちたりする事故も実際に発生しています。

企業としては、従業員の安全を第一に考えた対策を講じる必要があります。 具体的には、危険が予測される場合の出社判断基準を事前に定めておくこと、テレワークへの切り替え体制を整えておくこと、そして万が一帰宅困難になった場合に備えて社内に待機できる環境を整備することなどが挙げられます。

建物・設備への物的損害

浸水によって建物や設備が被害を受けると、事業活動に直接的な支障をきたします。 特に製造業では、工場内の機械設備が水に浸かることで故障し、修理や交換に多額の費用と時間がかかるケースが少なくありません。

浸水による物的被害には、以下のようなものがあります。

  • 建物本体の損傷:壁材や床材の膨張・腐食、基礎部分へのダメージ
  • 設備機器の故障:生産設備、空調機器、エレベーターなどの損壊
  • 在庫や資材の損失:製品、原材料、書類などの水濡れによる廃棄
  • 情報システムの被害:サーバー、パソコン、ネットワーク機器の故障

ここで注意すべきは、洪水や内水氾濫による浸水は単なる雨水ではないということです。 河川の氾濫水や下水道の逆流水には、泥や汚物、細菌などが含まれている場合があります。 そのため、浸水した設備は単に乾燥させるだけでは復旧できず、洗浄や消毒、場合によっては廃棄が必要になります。

物的被害の金額は、浸水の深さや継続時間によって大きく異なります。 床上浸水と床下浸水では被害の程度に大きな差があり、数センチの浸水を防げるかどうかで損害額が数百万円から数千万円も変わることがあります。 だからこそ、止水板や土のうなどの浸水防止設備を事前に準備しておくことが重要なのです。

取引先やサプライチェーンへの影響

自社が直接被災しなくても、取引先やサプライチェーンが被害を受ければ、事業継続に大きな影響が生じます。 グローバル化が進んだ現代では、国内外の調達先が被災することで、部品や原材料が入手できなくなるリスクを常に意識しておく必要があります。

2011年にタイで発生した大洪水は、サプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにした象徴的な事例です。 この洪水では、タイに進出していた日系企業を含む多くの工場が浸水被害を受け、自動車部品やハードディスクドライブの供給が世界的に滞りました。 日本国内の製造業も部品調達ができなくなり、生産停止に追い込まれた企業が多数発生しました。

サプライチェーンへの影響を最小限に抑えるためには、以下の対策が有効です。

対策項目具体的な内容
調達先の分散複数の仕入先を確保し、一社依存を避ける
在庫の適正化緊急時に備えて一定量の在庫を確保する
代替調達先の事前確保被災時に切り替え可能な取引先を把握しておく
情報共有体制の構築調達先の被災状況を迅速に把握できる仕組みを作る

また、自社が被災した場合には、納品先である取引先にも影響を与えることを忘れてはなりません。 納期遅延や供給停止は、取引先の信頼を損ない、最悪の場合は取引停止につながる可能性もあります。 事業継続計画(BCP)を策定し、被災時でも可能な限り事業を継続できる体制を整えておくことが、取引先との信頼関係を維持するうえで不可欠です。


知っておくべき水害の種類と特徴

水害と一口に言っても、その発生メカニズムや被害の特徴はさまざまです。 企業が効果的な浸水対策を講じるためには、どのような種類の水害が自社に影響を及ぼす可能性があるのかを正しく理解しておく必要があります。

水害は大きく分けて、洪水(外水氾濫)、内水氾濫、高潮・津波、そして土砂災害の4つに分類できます。 それぞれの水害には異なる特徴があり、必要な対策も異なります。 自社の立地条件やハザードマップの情報をもとに、どの水害リスクに備えるべきかを明確にしておきましょう。

洪水(外水氾濫)

洪水は、河川の水量が著しく増加し、堤防を越えてあふれたり、堤防が決壊したりすることで発生する水害です。 この現象は「外水氾濫」とも呼ばれ、河川の水が堤防の外側(市街地側)へ流出することを意味します。

洪水が発生する主な原因は、大雨や台風による河川の増水です。 上流部での降雨量が多い場合、下流域では数時間から半日程度のタイムラグを経て水位が上昇することがあります。 また、春先には雪解け水による増水も洪水の原因となります。

洪水による被害の特徴は以下のとおりです。

  • 被害範囲が広域に及ぶ:河川沿いの広い地域が一斉に浸水する
  • 水の勢いが強い:濁流とともに土砂や流木が押し寄せる
  • 復旧に時間がかかる:泥の除去や消毒など大規模な作業が必要
  • 予測が比較的可能:河川の水位情報から危険度を把握できる

企業が洪水に備えるためには、まず自社の近くを流れる河川の情報を把握することが重要です。 国土交通省や都道府県が公開している河川の水位情報やライブカメラを活用すれば、リアルタイムで河川の状況を確認できます。 また、ハザードマップで浸水想定区域と浸水深を確認し、自社がどの程度の浸水リスクにさらされているかを把握しておきましょう。

内水氾濫

内水氾濫は、市街地に降った雨水が排水しきれずにあふれ出す現象です。 河川の水があふれる外水氾濫とは異なり、下水道や排水路の処理能力を超える降雨によって発生します。

都市部では、地表の多くがアスファルトやコンクリートで覆われているため、雨水が地面に浸透しにくい構造になっています。 そのため、短時間に大量の雨が降ると、下水道の処理能力を超えた雨水が行き場を失い、道路や建物の低い場所に滞留します。 ひどい場合には、下水道から水が逆流して建物内に流れ込むこともあります。

内水氾濫の特徴をまとめると以下のようになります。

項目内水氾濫の特徴
発生場所都市部の低地、地下施設、アンダーパス
発生速度短時間で急速に浸水が進む
予測の難しさゲリラ豪雨では事前予測が困難
水質下水の逆流により汚水を含む場合がある
対策のポイント止水板の設置、排水ポンプの準備

企業にとって内水氾濫の対策が重要なのは、近年のゲリラ豪雨の頻発により、これまで浸水被害がなかった場所でも被害が発生するリスクが高まっているためです。 特にオフィスビルの地下階や、地下駐車場がある施設では、内水氾濫による浸水リスクを十分に認識しておく必要があります。

高潮・津波

高潮と津波は、いずれも海から陸地へ向かって水が押し寄せる現象ですが、発生メカニズムは異なります。 沿岸部に事業所を構える企業は、これらの水害リスクについても十分な対策が必要です。

高潮は、台風や発達した低気圧の接近に伴って発生します。 気圧の低下によって海面が吸い上げられる「吸い上げ効果」と、強風によって海水が海岸に吹き寄せられる「吹き寄せ効果」が重なることで、潮位が通常よりも大幅に上昇します。 2018年の台風21号では、関西国際空港の滑走路が高潮により冠水し、空港が閉鎖される事態となりました。

津波は、海底で発生する地震や火山活動によって引き起こされます。 地震による海底の地形変動が海水を押し上げ、巨大な波となって陸地に押し寄せます。 2011年の東日本大震災では、津波によって東北・関東の太平洋沿岸部に甚大な被害がもたらされました。 また、2024年の能登半島地震では、地震発生からわずか1分後に津波が沿岸に到達したケースも報告されています。

高潮と津波の違いを整理すると以下のとおりです。

  • 高潮:台風や低気圧が原因、数時間かけて潮位が上昇、事前予測が可能
  • 津波:地震や火山活動が原因、突発的に発生、避難時間が極めて短い

沿岸部の企業は、高潮・津波ハザードマップを確認し、想定される浸水深と避難場所を把握しておくことが重要です。 特に津波の場合は避難に使える時間が非常に限られるため、日頃から避難経路を確認し、迅速に高台へ移動できる体制を整えておく必要があります。

土砂災害などの二次被害

水害に伴って発生する土砂災害は、浸水被害とは異なる深刻なリスクをもたらします。 大雨によって地盤がゆるむと、がけ崩れ、地すべり、土石流といった土砂災害が発生しやすくなります。

土砂災害の種類と特徴は以下のとおりです。

種類特徴
がけ崩れ急斜面が突然崩れ落ちる現象、発生から被害まで数秒
地すべり斜面の土砂がゆっくりと移動する現象、広範囲に被害
土石流土砂が水と一体となって流れ下る現象、破壊力が大きい

土砂災害は、浸水被害と比較して人命に関わるリスクが極めて高いという特徴があります。 土石流の流速は時速20キロから40キロに達することもあり、発生してからでは逃げ遅れる危険性があります。 そのため、土砂災害警戒区域に近い事業所では、早めの避難判断が特に重要です。

自治体が発令する土砂災害警戒情報に注意を払い、危険度が高まった場合には速やかに避難行動をとれるよう、日頃から備えておきましょう。 また、事業所内でも、崖に面した部屋を避け、2階以上の崖から離れた場所に移動するなどの対策が有効です。


事前準備① 自社の浸水リスクを把握する

効果的な浸水対策を講じるためには、まず自社がどの程度の浸水リスクにさらされているかを正確に把握することが必要です。 リスクの把握なしに対策を進めても、的外れな準備に終わってしまう可能性があります。

浸水リスクの把握にあたっては、ハザードマップの確認が基本となります。 加えて、自社の事業所がある地域の地形的特徴や、過去の浸水履歴なども参考にしながら、より具体的なリスク評価を行いましょう。

ハザードマップの確認方法

ハザードマップは、自然災害による被害想定区域や避難場所、避難経路などを示した地図です。 水害に関しては、洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ、高潮ハザードマップ、津波ハザードマップなど、災害の種類ごとに別々のマップが作成されています。

ハザードマップを確認する最も簡単な方法は、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」を利用することです。 このサイトでは、全国の市区町村が公開しているハザードマップを一括して検索・閲覧できます。

ハザードマップポータルサイトには、以下の2つの機能があります。

  • 重ねるハザードマップ:地図上に災害情報を重ねて表示できる機能
  • わがまちハザードマップ:各市区町村のハザードマップへのリンク集

「重ねるハザードマップ」では、住所を入力するか地図上で現在地を表示することで、その場所の浸水想定区域や浸水深を視覚的に確認できます。 複数の災害リスクを重ね合わせて表示できるため、総合的なリスク把握に役立ちます。

ハザードマップを確認する際のポイントは以下のとおりです。

確認項目具体的な内容
浸水想定区域自社が浸水想定区域に含まれているか
浸水深想定される浸水の深さ(床下・床上・1階天井など)
浸水継続時間浸水が継続する想定時間
避難場所最寄りの指定避難場所の位置
避難経路安全に避難できるルート

ハザードマップは紙の冊子として配布されている場合もありますので、入手して社内の掲示板に貼っておくことをおすすめします。 日常的に目に入る場所に掲示しておくことで、従業員の防災意識向上にもつながります。

オフィス・拠点ごとの被害想定

企業が複数の事業所や拠点を持っている場合、それぞれの立地条件に応じた被害想定を行う必要があります。 本社は安全な場所にあっても、工場や営業所が浸水リスクの高い地域にある可能性もあるためです。

拠点ごとの被害想定を行う際には、以下の観点から検討を進めましょう。

  • 施設・設備の被害:建物や機械設備がどの程度の被害を受けるか
  • 業務継続への影響:浸水によって業務がどの程度停止するか
  • 従業員への影響:従業員の安全確保や通勤への支障
  • 情報資産の被害:サーバーやデータ、重要書類への影響

被害想定を具体的に行うためには、ハザードマップで確認した浸水深をもとに、自社施設のどの部分まで水が到達するかを検討します。 たとえば、浸水深が0.5メートルと想定される場合、1階の床上浸水が発生し、床に置かれた機器や在庫が被害を受ける可能性があります。 浸水深が1メートルを超える場合は、1階の天井近くまで水が達し、電気設備やエアコンの室外機なども被害を受けることが想定されます。

被害想定の結果は、文書化して関係者間で共有しておくことが重要です。 想定される被害の内容と規模を明確にしておくことで、必要な対策の優先順位づけや、BCPの策定に活かすことができます。

取引先・調達先のリスク評価

自社だけでなく、取引先や調達先の浸水リスクを評価することも重要な取り組みです。 サプライチェーンのどこかが被災すれば、自社の事業継続にも影響が及ぶ可能性があるためです。

取引先のリスク評価を行う際には、以下の情報を収集・整理しておきましょう。

評価項目収集すべき情報
所在地取引先の事業所・工場の住所
浸水リスクハザードマップによる浸水想定の有無
代替可能性被災時に代替調達できる先があるか
納品リードタイム代替調達に切り替えた場合の所要時間
連絡体制被災時に状況確認できる連絡先

特に重要な部品や原材料を調達している取引先については、優先的にリスク評価を実施しましょう。 調達先が国内の一箇所に集中している場合は、リスク分散の観点から複数の調達先を確保しておくことが望ましいといえます。

また、国外の調達先についても注意が必要です。 2011年のタイ洪水の事例が示すように、海外のサプライヤーが被災した場合、日本国内の事業にも大きな影響が及ぶことがあります。 グローバルなサプライチェーンを持つ企業は、海外拠点の水害リスクも視野に入れた評価を行うことをおすすめします。


事前準備② 浸水防止設備と備蓄品を整える

浸水リスクを把握したら、次は具体的な対策として浸水防止設備や備蓄品を整えていきます。 水害は事前に予測できる災害であるため、シーズン前から計画的に準備を進めることが重要です。

浸水対策に必要な設備や備蓄品は、発災直前に発注しても間に合わないことが多いです。 梅雨や台風シーズンを迎える前の時期に、必要な物品を揃えておきましょう。

止水板・土のう・水のうの選び方

建物内への浸水を防ぐための設備として、止水板、土のう、水のうがあります。 それぞれに特徴があるため、自社の状況に応じて適切なものを選択しましょう。

止水板は、建物の出入口に設置して浸水を防ぐ板状の設備です。 アルミ製やステンレス製のものが多く、軽量で取り扱いやすいのが特徴です。 設置用のレールをあらかじめ取り付けておけば、緊急時にも素早く設置できます。 止水板を選ぶ際には、以下のポイントを確認しましょう。

  • 設置する開口部の幅と高さに合ったサイズか
  • 設置に特別な工具や技術が必要ないか
  • 収納スペースが確保できるか
  • 複数枚を重ねて高さを調整できるか

土のうは、袋に土や砂を詰めたもので、古くから浸水対策に使われてきた定番の資材です。 ただし、従来型の土のうは重く、保管場所も必要になるため、企業での備蓄には課題もあります。 最近では、「吸水土のう」と呼ばれる製品も普及しています。 吸水土のうは、乾燥した状態では軽量でコンパクトですが、水を吸収すると膨らんで土のうとして機能します。 保管スペースが限られるオフィスでも備蓄しやすいのがメリットです。

水のうは、ポリ袋に水を入れて作る簡易的な浸水対策グッズです。 45リットル程度のポリ袋を2重にして、3分の1から半分程度まで水を入れ、空気を抜きながら口を縛って作ります。 特別な資材を購入しなくても、その場にあるものですぐに作成できるのが利点です。

種類メリットデメリット
止水板設置が簡単、繰り返し使用可能初期費用が高い、設置工事が必要な場合も
土のう安価、柔軟に積み上げ可能重い、保管場所が必要、廃棄が大変
吸水土のう軽量でコンパクト、保管しやすい使い捨ての場合が多い
水のう特別な準備不要、すぐに作成可能強度が低い、設置に手間がかかる

浸水対策設備は、設置方法を事前に確認し、訓練しておくことが重要です。 いざというときに使い方が分からなければ意味がありません。 定期的な防災訓練の中で、止水板の設置や土のうの積み方を練習しておきましょう。

備蓄品の種類と必要量の目安

浸水被害が発生した場合、従業員が一定期間オフィスに留まる必要が生じることがあります。 交通機関の運休や道路の冠水により、帰宅が困難になるケースも想定されます。 そのため、企業としては従業員が社内で待機できるだけの備蓄品を準備しておく必要があります。

備蓄品の量については、東京都帰宅困難者対策条例では「3日分」が推奨されています。 これは、災害発生後の救助活動が優先される72時間の間、従業員をオフィスに留めておくことで、人命救助の妨げにならないようにするためです。

ただし、水害の場合は浸水が長期化することもあるため、可能であれば1週間から2週間分の備蓄があると安心です。 特に交通網が寸断された場合、物資の支援が届くまでに時間がかかる可能性があります。

企業が備蓄すべき主な品目は以下のとおりです。

  • 飲料水:1人1日3リットルを目安に
  • 食料:アルファ米、缶詰、クラッカーなど保存の効くもの
  • 簡易トイレ:断水時のトイレ対策として
  • 毛布・アルミブランケット:宿泊時の防寒対策
  • 懐中電灯・ランタン:停電時の照明確保
  • 携帯電話充電器:連絡手段の確保
  • 救急用品:ばんそうこう、消毒液、常備薬など

備蓄品の管理には「ローリングストック」という方法が有効です。 これは、普段から少し多めに食料品などを購入しておき、使った分だけ買い足すことで、常に一定量の備蓄を維持する方法です。 消費期限の管理がしやすく、いざというときにも普段食べ慣れたものを摂取できるメリットがあります。

データバックアップと情報資産の保護

浸水被害によって情報資産が損壊すると、事業継続に深刻な影響を及ぼします。 サーバーやパソコンが水に浸かれば故障は避けられず、保存されていたデータが失われる可能性があります。 重要な業務データや顧客情報が復旧できなくなれば、事業そのものの継続が困難になることもあります。

情報資産を浸水から守るための対策には、以下のようなものがあります。

対策内容
クラウドバックアップ重要データをクラウドサーバーに保存する
遠隔地へのバックアップ別拠点や遠隔地のサーバーにデータを複製する
サーバールームの浸水対策サーバーを上階に設置する、止水対策を施す
重要書類のデジタル化紙の書類をスキャンして電子データ化する
オフサイトストレージ重要なバックアップ媒体を別の場所で保管する

データのバックアップは、日次や週次など定期的に実施することが重要です。 バックアップの頻度が低いと、復旧できたとしても最新のデータが失われてしまいます。 また、バックアップデータが正常に復元できるかどうかを定期的にテストしておくことも忘れないようにしましょう。

情報システム部門だけでなく、各部署で保有している重要なデータについても、バックアップ体制を確認しておくことが必要です。 個人のパソコンにのみ保存されている重要データがないか、棚卸しを行っておきましょう。

防災グッズの保管場所と管理

備蓄品や浸水対策グッズは、適切な場所に保管し、定期的にメンテナンスを行う必要があります。 いざというときに使えない状態では、せっかくの準備が無駄になってしまいます。

防災グッズの保管場所を決める際のポイントは以下のとおりです。

  • 浸水しにくい場所に保管する:1階や地下は避け、できるだけ上階に
  • 取り出しやすい場所に保管する:緊急時にすぐにアクセスできる場所
  • 従業員全員が場所を知っている:保管場所を周知しておく
  • 定期的に点検できる:消費期限や動作確認が行いやすい場所

止水板や土のうなどの浸水対策グッズは、玄関付近など設置場所の近くに保管しておくと、緊急時に素早く対応できます。 一方、備蓄食料や飲料水は浸水リスクの低い上階に保管するのが望ましいでしょう。

備蓄品の管理においては、消費期限の確認が欠かせません。 食料や飲料水、電池などには消費期限があるため、定期的にチェックして期限切れを防ぎましょう。 年に1回程度、防災の日(9月1日)などを目安に備蓄品の総点検を行うことをおすすめします。


事前準備③ 避難計画とタイムラインを策定する

浸水被害から従業員の命を守るためには、適切なタイミングで安全に避難できる体制を整えておくことが不可欠です。 避難計画とタイムラインを事前に策定し、全従業員に周知しておきましょう。

水害は事前に予測できる災害であるため、気象情報や警報の発令状況に応じて段階的に対応することが可能です。 「いつ」「どこへ」「どのように」避難するかを明確にしておくことで、混乱なく避難行動をとることができます。

従業員の避難場所と経路の明確化

従業員が安全に避難できるよう、避難場所と避難経路をあらかじめ決めておく必要があります。 避難先としては、自治体が指定する避難場所のほか、社内の安全な場所への垂直避難も選択肢に含まれます。

避難場所を選定する際には、以下の点を確認しましょう。

確認項目具体的な内容
浸水想定区域外であることハザードマップで避難場所が浸水しないか確認
収容人数自社の従業員数を収容できるか
所要時間徒歩で避難できる距離か
避難経路の安全性経路上に危険箇所(アンダーパス、河川など)がないか
開設状況の確認方法避難場所が開設されているか確認する手段

避難経路については、複数のルートを設定しておくことが重要です。 メインの避難経路が浸水や土砂崩れで通行できない場合に備えて、代替ルートも検討しておきましょう。

また、避難場所への移動が危険な状況もありえます。 すでに周囲が冠水している場合などは、無理に避難場所へ向かうよりも、建物の上階に移動する「垂直避難」のほうが安全な場合があります。 状況に応じた判断ができるよう、複数の避難パターンを想定しておくことが大切です。

避難開始のタイミング判断基準

避難のタイミングを誤ると、逃げ遅れによる被害につながる危険があります。 気象庁や自治体が発表する警戒レベルをもとに、避難開始のタイミングを判断しましょう。

令和3年5月に改定された避難情報に関するガイドラインでは、警戒レベルが5段階に整理されています。 各レベルと企業がとるべき行動の目安は以下のとおりです。

警戒レベル発表される情報企業がとるべき行動
レベル1早期注意情報気象情報に注意、心構えを高める
レベル2大雨・洪水注意報避難場所・経路を再確認、準備を開始
レベル3高齢者等避難避難に時間がかかる人は避難開始、その他も準備
レベル4避難指示全員避難(この時点で必ず避難する)
レベル5緊急安全確保命を守る行動をとる(すでに災害発生の可能性)

重要なのは、警戒レベル4「避難指示」が発令された時点で、対象区域にいる全員が避難を完了している必要があるということです。 レベル5は「すでに災害が発生している」または「発生が切迫している」状況であり、この段階で避難を開始しても間に合わない可能性があります。

企業としては、警戒レベル3の段階から本格的な避難準備を始め、レベル4が発令される前には避難を完了できるよう、早めの行動を心がけましょう。

タイムライン(防災行動計画)の作成手順

タイムラインとは、災害発生に備えて「いつ」「誰が」「何をするか」を時系列で整理した防災行動計画です。 水害は発生までに時間的猶予があるため、タイムラインに沿って計画的に対応することで、被害を最小限に抑えることができます。

タイムラインを作成する手順は以下のとおりです。

  1. 想定する災害シナリオを設定する 自社に影響を与える可能性がある水害(河川氾濫、内水氾濫など)を特定し、被害想定を明確にします。
  2. 行動項目をリストアップする 災害発生前から発生後まで、必要な行動を洗い出します。 例:気象情報の収集、備蓄品の確認、止水板の設置、避難指示、安否確認など
  3. 行動のタイミングを決める 各行動をいつ実施するか、警戒レベルや台風接近までの時間などを基準に設定します。
  4. 担当者を決める 各行動の責任者と実施者を明確にします。
  5. 連絡体制を整備する 情報伝達のルートと手段(電話、メール、チャットツールなど)を決めます。

タイムラインは表形式でまとめておくと、実際の災害時に参照しやすくなります。 たとえば、以下のような形式で整理します。

タイミング行動項目担当者備考
台風接近3日前気象情報の収集開始総務部気象庁ホームページを確認
台風接近2日前備蓄品・止水板の点検総務部不足があれば補充
台風接近1日前従業員への注意喚起各部門長翌日の出勤判断基準を周知
当日朝出勤可否の判断・連絡経営層テレワーク切り替えの判断
警戒レベル3発令帰宅準備・データバックアップ各従業員重要データの最終バックアップ
警戒レベル4発令避難開始全員避難場所へ移動

定期的な訓練と計画の見直し

避難計画やタイムラインは、策定しただけでは不十分です。 実際に訓練を行い、計画どおりに行動できるかを確認することが重要です。

避難訓練を実施する際のポイントは以下のとおりです。

  • 全従業員が参加する:一部の担当者だけでなく、全員が避難行動を経験する
  • 実際の避難経路を歩く:机上の確認だけでなく、実際に移動してみる
  • 所要時間を計測する:避難完了までにどれくらい時間がかかるか把握する
  • 課題を洗い出す:訓練で判明した問題点を記録する
  • 計画を改善する:課題をもとに避難計画を見直す

訓練は年に1回以上、できれば梅雨や台風シーズンの前に実施することをおすすめします。 訓練を通じて従業員の防災意識を高めるとともに、計画の実効性を検証しましょう。

また、組織体制や事業所の状況に変化があった場合には、その都度、避難計画を見直すことが必要です。 新しい従業員が入社した際には、避難場所や避難経路の説明を行い、次回の訓練には必ず参加させるようにしましょう。


災害発生時の緊急対応

どれだけ事前準備を行っていても、実際に水害が発生した際には、状況に応じた迅速な判断と行動が求められます。 緊急時に慌てず対応できるよう、災害発生時の行動手順を確認しておきましょう。

水害は事前に予測できる災害とはいえ、ゲリラ豪雨のように短時間で状況が急変することもあります。 リアルタイムの気象情報を収集しながら、柔軟に対応することが重要です。

気象情報の収集と状況判断

災害発生時には、正確な気象情報をリアルタイムで収集し、状況を的確に判断することが求められます。 情報源としては、気象庁のホームページや防災アプリ、自治体の防災情報などを活用しましょう。

気象情報を収集する際に確認すべき項目は以下のとおりです。

情報の種類確認先確認のポイント
警報・注意報気象庁ホームページ大雨警報、洪水警報の発令状況
河川水位国土交通省「川の防災情報」近隣河川の水位と氾濫危険水位との差
雨雲レーダー気象庁・民間気象アプリ今後の雨の見通し
土砂災害警戒情報気象庁ホームページ土砂災害の危険度
避難情報自治体ホームページ・防災無線避難指示等の発令状況

これらの情報をもとに、自社への影響度合いを判断します。 判断にあたっては、事前に策定したタイムラインを参照し、「いま何をすべきか」を確認しながら行動しましょう。

また、河川のライブカメラ映像は状況把握に非常に役立ちます。 国土交通省や自治体が設置しているライブカメラを活用すれば、現地に行かなくても河川の状況を確認できます。 増水時に河川を直接見に行くのは非常に危険ですので、絶対に避けてください。

従業員への指示と安否確認

災害発生時には、従業員に対して的確な指示を出し、安全を確保することが最優先です。 また、被災後には速やかに安否確認を行い、全員の状況を把握する必要があります。

従業員への指示に関しては、以下のような場面ごとに対応を整理しておきましょう。

  • 勤務時間中に警報が発令された場合:帰宅指示または社内待機の判断
  • 出勤前に警報が発令されている場合:出勤可否の判断と連絡
  • 退勤後に被災した場合:翌日の出勤可否の連絡

安否確認については、電話やメールだけでなく、専用の安否確認システムを導入することをおすすめします。 災害時には電話回線が混雑して通話しにくくなることがあるため、インターネットを利用した安否確認システムが有効です。

安否確認システムには以下のような機能があります。

  • 自動配信機能:災害発生時に自動的に安否確認メッセージを送信
  • 集計機能:回答状況をリアルタイムで集計・表示
  • 双方向連絡:従業員からの報告と会社からの指示を双方向でやりとり
  • 家族の安否確認:従業員だけでなく家族の安否も確認可能なものも

安否確認システムを導入している場合は、定期的に訓練を行い、従業員全員が使い方を理解しているか確認しておきましょう。 訓練で回答率が100パーセントにならない場合は、その原因を分析し、改善につなげることが大切です。

応急的な浸水防止措置

浸水が迫っている状況で、建物内への水の侵入を防ぐための応急措置を行うことも重要です。 事前に準備した止水板や土のうを活用するほか、その場にあるもので簡易的な対策をとることも可能です。

応急的な浸水防止措置として、以下の方法があります。

  1. 止水板の設置 事前に設置用レールを取り付けている場合は、止水板をはめ込んで出入口を封鎖します。 設置後は、隙間からの水漏れがないか確認しましょう。
  2. 土のう・水のうの積み上げ 出入口や浸水が予想される箇所に土のうを積み上げ、水の侵入を防ぎます。 水のうは、ゴミ袋に水を入れて作成し、土のうの代用として使用できます。
  3. 簡易的な止水方法 プランターやポリタンクなどにレジャーシートを巻き付けて堤防代わりにする方法もあります。 また、ゴミ袋に水を入れたものを段ボール箱に敷き詰め、出入口に設置する方法も有効です。
  4. 排水口の逆流対策 内水氾濫時には下水道から水が逆流することがあります。 排水口をビニール袋に水を入れたもので塞ぎ、逆流を防ぎましょう。

これらの応急措置を行う際には、従業員の安全を最優先に考えてください。 浸水が進んでいる状況での作業は危険を伴うため、無理をせず、状況に応じて避難を優先する判断も必要です。

避難時の注意点

避難行動をとる際には、安全に避難場所へ到達するための注意点を守ることが重要です。 水害時の避難は、平常時とは異なる危険が伴います。

避難時の主な注意点は以下のとおりです。

  • 明るいうちに避難する 暗くなってからの避難は視界が悪く、危険度が増します。 警戒レベル3が発令された段階で、早めに避難を開始しましょう。
  • 冠水した道路を歩かない 冠水した道路はマンホールの蓋が外れていたり、側溝との境目が分からなくなっていたりして危険です。 やむを得ず水の中を歩く場合は、傘や棒で足元を確認しながら進みましょう。
  • 河川や用水路に近づかない 増水した河川や用水路は、見た目以上に流れが速く、転落すると自力で脱出できない可能性があります。 避難経路上に河川がある場合は、代替ルートを選択してください。
  • アンダーパスを通らない 道路が線路や別の道路の下をくぐる場所(アンダーパス)は、水がたまりやすい構造になっています。 冠水したアンダーパスに車で進入すると、車両が水没して脱出できなくなる危険があります。
  • 車での避難は慎重に 車は水深30センチメートル程度でエンジンが停止する可能性があります。 冠水した道路では車を使わず、徒歩での避難を検討してください。

また、感染症対策の観点から、避難所以外の避難先も検討しておくことが重要です。 親戚や知人の家、ホテルなど、避難所以外の安全な場所に避難する「分散避難」という考え方も広まっています。 自社の建物が安全な場合は、社内の上階に留まる「垂直避難」も選択肢の一つです。


被災後の事業再開に向けた取り組み

浸水被害を受けた後、いかに早く事業を再開できるかは、企業の存続に関わる重要な問題です。 事前にBCP(事業継続計画)を策定し、被災後の対応を計画しておくことで、復旧までの時間を短縮できます。

被災直後は混乱しがちですが、あらかじめ決められた手順に沿って行動することで、効率的に復旧作業を進めることができます。

BCPの策定と発動判断

BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害などの緊急事態が発生した際に、事業を継続または早期に復旧するための計画です。 浸水被害を想定したBCPを策定しておくことで、被災後の対応をスムーズに進められます。

BCPを策定する基本的な手順は以下のとおりです。

  1. ビジネス影響分析(BIA)の実施 自社の事業活動のうち、どの業務が最も重要で、停止した場合にどのような影響が生じるかを分析します。
  2. 重要業務の特定 事業継続のために優先的に復旧すべき業務を特定します。
  3. 目標復旧時間の設定 重要業務をどのくらいの時間で復旧させるかの目標を設定します。
  4. 対策の検討 目標を達成するために必要な対策(代替手段、バックアップ体制など)を検討します。
  5. 計画の文書化 策定した内容を計画書として文書化し、関係者に周知します。

内閣府の調査によると、BCPの策定率はこの16年間で大企業では約4倍、中堅企業では約3倍以上に増加しています。 特に東日本大震災以降、BCP策定への意識が高まりましたが、まだ策定に至っていない企業も少なくありません。

BCPを発動するかどうかの判断は、災害発生後4時間から6時間を目安に行います。 発動の判断にあたっては、以下の要素を考慮します。

判断要素確認内容
被害の規模自社施設・設備の被害状況
影響範囲事業活動への影響の大きさ
復旧見込み通常操業に戻るまでの見込み時間
社会的影響取引先や顧客への影響
従業員の状況従業員の安否と出社可否

復旧体制の整備と優先業務の特定

被災後に事業を復旧するためには、復旧作業に当たる体制を整備し、優先的に取り組むべき業務を明確にしておくことが重要です。 すべての業務を同時に復旧することは現実的ではないため、優先順位をつけて段階的に進めます。

復旧体制の整備にあたっては、以下の点を検討しておきましょう。

  • 災害対策本部の設置:復旧作業の指揮をとる組織を設置する
  • 役割分担の明確化:誰が何を担当するかを決めておく
  • 代行者の設定:担当者が被災して対応できない場合の代行者を決めておく
  • 連絡体制の確立:情報共有のルートと手段を決めておく

優先業務の特定については、BIAの結果をもとに判断します。 一般的に、以下のような観点から優先度を判断します。

  • 停止した場合の損害が大きい業務
  • 法令上の義務がある業務
  • 顧客や取引先への影響が大きい業務
  • 他の業務の前提となる業務

優先業務を復旧するために必要なリソース(人員、設備、情報など)も事前に洗い出しておき、被災時にすぐに確保できるよう準備しておきましょう。

地域・他企業との連携体制

被災後の復旧においては、自社だけでなく、地域や他企業との連携が大きな力となります。 平時から関係を構築しておくことで、いざというときに助け合える体制を作ることができます。

地域との連携としては、以下のような取り組みが考えられます。

  • 地域の防災訓練への参加:自治体や自治会が実施する防災訓練に参加する
  • 災害時の相互支援協定:自治体との間で災害時の支援に関する協定を結ぶ
  • 地域住民への施設開放:被災時に自社施設を避難場所として提供する

他企業との連携としては、以下のような取り組みが有効です。

連携の種類具体的な内容
同業他社との相互支援被災時に製造や配送を代行する
取引先との情報共有被災状況を迅速に共有する体制を作る
業界団体を通じた連携業界全体で災害対応に取り組む
異業種との連携物資の融通や施設の相互利用を行う

特に、サプライチェーンを構成する取引先との連携は重要です。 自社が被災した場合に代替調達先を確保できるよう、平時から複数の取引先との関係を構築しておきましょう。 また、自社が被災した際には、速やかに取引先へ状況を報告し、影響を最小限に抑える努力をすることが信頼関係の維持につながります。


まとめ

本記事では、企業が取り組むべき浸水対策について、事前準備から緊急時対応、被災後の事業再開まで体系的に解説しました。

水害は毎年日本各地で発生しており、令和5年には全国で約7,132億円もの被害が生じています。 地球温暖化の影響で豪雨の頻度は増加傾向にあり、これまで被害がなかった地域でも浸水リスクが高まっています。 企業にとって浸水対策は、もはや避けて通れない経営課題といえるでしょう。

浸水対策を進めるうえで重要なポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 自社の浸水リスクをハザードマップで確認し、被害想定を明確にする
  • 止水板や土のう、備蓄品など必要な設備・物資を事前に準備する
  • 避難計画とタイムラインを策定し、定期的に訓練を実施する
  • 気象情報を収集し、適切なタイミングで避難や対策を行う
  • BCPを策定し、被災後も早期に事業を再開できる体制を整える

水害は地震と異なり、気象情報をもとにある程度事前に予測できる災害です。 つまり、適切な準備と対策を講じれば、被害を大幅に軽減できる可能性があります。

大切な従業員の命を守り、事業を継続していくために、今日からできる浸水対策に取り組んでみてください。 シーズン前に準備を始めることで、いざというときに慌てず対応できる体制を整えることができます。